ママのバレンタイン
 パパとママは、壊れてしまった。
 私はどうだろう?
 その気持ちが、ずっと、私を臆病にさせていた。
 素敵なパパとママだって、ダメだった。私なんかもっとダメだわ……
 恋人なんかできないかかもしれない……
 そう思いながらいつも片思いだった。
 それが突然、安宅君からまっすぐに私が好きだと告白してくれた。
 正直怖かった。

 彼に自分の気持ちを伝えることが怖かった……だって、私はまっすぐに好きだなんて言ってもらえるほどの女の子じゃないかもしれないのに……本当の私を知ったら、きっとキライになる……嫌われるのはイヤだもの……私はどうしていいか分からずに、同じ所をぐるぐる回っているだけだった。
 
「ママは、ヤスオちゃんがどっかいっちゃわないかって心配じゃない?」
「そりゃあ、時々はね。でも、ママはもう、自分を傷つけないことにしたの。自分なんか不釣り合いだとか、自分なんかじゃダメだとか、もっと素敵な女の子がいるんじゃないかとか……自損行為は止めました。だって、そう思うことこそが、彼のまっすぐな気持ちを傷つけているって分かったから……そんなこと思う前に、嫌いなお掃除を好きになるようにするとか、もっと、美しくいるためにどうすればいいかとか……そんなふうに思えるようになったかなあ……彼は、だって、今のママを大切に可愛がってくれるんだもの……ママを愛してくれるヤスオちゃんの気持ちを大切にしたいって思えるようになったのよ」

「相手の気持ちを大切にするかあ……」
「そうだよ、香奈。ママね、パパの気持ちをもっと大切にしてあげていればよかった。そうしたら、何かがちょっと、変わっていたかもしれない……よくわかんないけれど……」
「私にもできるかなあ……」
「できるに決まってるでしょう。香奈は誰の娘だと思っているの?」
「だから、不安だったのよ」

「ごめんなさい……でも、香奈はもっと自信もっていいのよ。ママは香奈をいっぱい愛してきた。これからだって……それを香奈は知っているし、香奈もママを好きでいてくれるでしょう?」
「当たり前のことだわ……」
「そして、パパも、ヤスオも香奈のことがとても大切だと思ってるわ。香奈が愛されることを知っている人間だって言いたいの。愛の流れる流れ方を香奈は知っているのよ。それで、充分」

「安宅君は、私のことを嫌いにならないかしら?」
「大丈夫。チョットやそっとのわがままで、香奈をキライになったりするのなら、それだけの男でしょう。そんなときにはきっぱり別れるのね。未熟な男に関わっていても疲れるだけだわ」

「ママ……」
「なあに?」
「これからも、私のママでいてね……」
「どうしようかなあ~香奈次第かな?」
「変な駄洒落!」
 ママと私はお店中に響くほど大きな声で笑った。

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