ヘヴンリーブルー
 今目の前に確かに存在しているレイズとウォレン。その姿を見てなぜだかほっとした気持ちを覚えている自分に不思議な思いを抱えながら、フィスもティムズに手を差し伸べた。

「そんなに褒められると、年甲斐もなくますますこの船を下りられなくなっちまいそうだな」

 頭を掻きながらフィスと握手する姿を見て、レイズとウォレンは顔を見合わせて笑う。

「まだまだ。ディックバードを降りようなんて俺が許さない。ティムズ、見ろ。追い風だ。今のうちに軌道を戻すぞ。デッキで眠ってるやつらを起こしてセイルを揚げろ。それから…」

 意味ありげににやっと笑ったレイズに、フィスとウォレンの視線が注がれる。

「それから、その後は少し眠った方がいい。ディックバードを降りようなどと考えるのはまだまだ早いが、年には勝てないだろう?」

「また! 船長、一言余計ですよ!」

 ブリッジ内に笑い声が響く。

 そうだ。この船に乗ってから、いつもどこかから聞こえていたレイズの笑い声。みんな必死でこの人を、この場所を守ろうとしていたんだ。レイズはその想いに全力で応えていたんだ。私には曖昧で見えない自分の居場所を、この人たちはしっかりと持ってる。絆の強さはこれだ。

 少しの会話の後、ティムズはデッキに向かいブリッジを後にした。その背中を追い、ウォレンもセイルを揚げる準備へ向かった。


「何をボーっとしている?」

 レイズの声で現実に意識を戻したフィスは、突然訪れた二人だけのシチュエーションに戸惑う。

「…別に」

「嵐を乗り越えた気分はどうだ? 海が嫌いになったとか?」

 怖い、と思った。いつも目にしていた海は穏やかで温かかったはずなのに、嵐の海は何もかもをすっぽりと飲み込んでしまうような恐怖に満ちていた。

 この人さえも―――。

 そんなことを考えながらレイズの背中を見つめる。

「俺は海に魅せられた。何が起こるかわからないのが海だ。お前の生活よりも、何よりも自由だろ?」

「何を考えながらあの嵐の中にいるの?」

「そうだな…」

 少し考え込んだ後「次に見る太陽のことを考えている」とレイズは言った。

「次に見る太陽?」

 慣れた手つきで舵を操りながら、レイズは振り返った。

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