ヘヴンリーブルー
11.真実
「ねえ、彼女は誰?」

「彼女?」

 すたすたと先を歩いていってしまうレイズの背中を追いながら、フィスは尋ねた。

「お帰りなさいって言ってたわ」

「ユナのことか?」

 レイズがその名前を口にすると、フィスは途端に黙り込んでしまった。レイズはようやく足を止め振り返る。

「俺はそれに対してただいまなどと言ったか?」

 立ち止まった背中にぶつかりそうになり、反射的に顔を上げたフィスは少し頬を膨らませながら言う。

「はぐらかさないで」

「はぐらかす? 何を?」

 そう言われてふと気付く。

 そうだ。レイズは別に何かをはぐらかそうとしてる訳じゃない。それなのにどうしてこんなにイライラしちゃうんだろう。

 こんな感情は今までに体験したことがなかった。別にレイズが誰とどんな会話をして、どんなに楽しそうにしていたとしたって、それに腹を立てるなどもってのほかだというのはわかっている。

 それなのに。

「意味がわからない。ほら、行くぞ。こんなところで時間をつぶしている場合じゃない」

 再びレイズは歩き出す。その背中を追うしかないフィスは、途中この町の港に着いたときと同じように、人ごみの中に紛れても彼の背中を見失わないように歩き続けた。

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