ヘヴンリーブルー
16.平穏という幸せ
 まだ日が昇る前の明け方、レイズは一人デッキで空を見上げていた。星の瞬きが視界の中にかすかに残る。
 

 こうして幾つもの夜を越えてきた。いつも側にはウォレンがいて、かけがえのない仲間たちの笑い声が聞こえて、当たり前のように廻ってくる朝と自由の中に、確かに彼はいた。

 けれどこうして明け方のデッキでかすかな星の瞬きを数えてしまうのは、子供の頃からの癖だ。自分の存在を見失わないように。ここにいる自分を迷わないように。

 しばらくして背後で小さな音がした。振り向くとそこにはフィスの姿があった。

「どうした?」

「そっちこそ。こんなに早くから何してるの?」

「別に」

 その横顔がなぜだか少し寂しげに見えて、フィスは彼の隣に肩を並べた。

「ずっとここにいたの?」

「ああ」

「そう。私は…なんだか眠れなくて」

 レイズはそれには答えず、タバコに火をつけた。煙が風に巻き込まれて消えていくのをフィスは見つめていた。

「ね、結婚ってどんなものだと思う?」

「さあ。したことがないからわからない」

 もう一度煙を吐き出したレイズは、視線を空に向けたまま答える。

「そうよね。私にも全然わからない」

「断ることだってできただろ。お前には姉が二人もいる。いくら姉が国王に反発しているといっても筋で言えば長女が受け止めるべきことだ」

「姉たちは変なところで頭が切れるのよ。私はドンくさいというかなんというか。でも、いいの。父をあれ以上苦しめたくなかったし」

「それなのに、今ディックバードに乗っている。国王は嘆いていることだろうな」

「そうね…」

 フィスはそう言って小さなため息を一つついた。

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