【短】半透明な愛を捧ぐ
夜明けの名前
『───…つ、りつ』
誰かが、知らない名前を呼んでいる。
『りつ、俺の命が尽きるまで忘れはしない』
そう囁いてる彼の姿は、白い影に覆われていて分からない。
…ただ、分かるのは、心地いい低い声だけ。
「あたしはりつじゃない」
そう答えた。そしたら、いつもみたいに目が覚めた。
気怠い体をゆっくり起こして、そして自分の頬に涙の跡があることに気がついた。
これは、初めてだ。いつもはひたすら名前を呼ぶだけだったのに。
それにしても、あの会話あたしも誰かに言われた気がする。
ああ、ダメだ。全然思い出せない。
「里依南(リイナ)、昨日は眠れた?」
控えめにドアを叩く音が聞こえた後、そう聞かれた。
< 1 / 27 >