花物語
ホワイトクリスマス
クリスマスはもう少し先だけど
今日はあるクリスマスのお話をしましょうね
あるところにお母さんが一人で暮らしていたの
そのお母さんはもう九十歳になったのかしら
お母さんには娘が二人と息子が一人いたのよ

息子は長男だけど末っ子だったから
ちょっと甘えん坊だったの
でも二十歳になったとき
何も言わずに家を出ていったの
田舎を出て何もかもやり直したいと思ったの

彼のお母さんもお父さんも彼のことを信じていたの
人の道を踏み外すような子ではないと
彼も両親が自分のことを信じていると思っていたの
彼は小さい頃から両親を尊敬していたし
そして両親は彼のことを愛していたの

家族はいつかみんなが大人になって
一人一人家を出ていくものなの
夫婦も親子も家族もそのあり方はさまざま
こうでなくてはということはないの
離れ離れになっていても信じあっていればいいの

田舎を出るときに彼はひとつの決心をしたの
もう田舎には戻らないって
そんなことしなくてもいいのだけど
それが彼にとっては自分へのけじめだったのね
自分のことを人は許しても自分はけっして許さないと

彼が家出してもう四十年以上も経ったころ
お父さんは病気で亡くなって
お母さんは一人で暮らすことになったの
そしてそれまで大きな病気をしたことがなかった彼も
病気になって入院することになったの

人の運命って分からないものよ
お母さんよりも早く彼は亡くなってしまった
一番の親不孝を彼はしてしまったの
お母さんは涙も涸れるくらいに泣いて過ごしたの
そして十二月二十五日のクリスマス・・・彼の誕生日

花屋さんがいっぱいの白いバラの花を車で運んできたの
亡くなる前に彼がお花屋さんにたのでおいたの
お母さんのお部屋もお庭もホワイトクリスマスの花で真っ白
お母さんは思ったのよ
四十年分まとめて息子がやっと帰ってきてくれたと・・・

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