花物語
森のケヤキさんの悲しみ
森の大きなケヤキさんには
気がかりなことがありました
風さんが噂していた話
ある大きな町の市役所がある大通りの
ケヤキ並木が伐られてしまうという話

風さんの話では市役所前の大通りの下に
地下鉄の東西線ができるそうなのです
それに合わせて道路を広げる
そのために分離帯のケヤキ並木を伐る
ということだったのです

風さんからこの話を聞いたとき
森のケヤキさんは自分が伐られたように
身体に痛みが走りました
どうか一本の木も伐られないでほしい
そう願っていたのです

大通り沿いの住民も多くの市民も
環境や景観を守るためにも
ケヤキ並木の伐採に反対したのです
並木が遊び場の鳥さんたちも反対でした
その後風さんはこんな話を持ってきました

地下鉄工事の間はケヤキは植物園に移植する
工事が終わったら元に戻す
そんな約束ができたそうです
森のケヤキさんはそれを聞いて安心しました
よかったほんとによかったと喜びました

それからずいぶん時が過ぎました
地下鉄工事は終わったよと風さんは言ってました
でもケヤキがどうなったかは教えてくれません
そこで森のケヤキさんは雲さんに尋ねました
市役所のある大通りはどうなったの雲さん

すると雲さんは森のケヤキさんに言いました
風さんは何も言わなかったのケヤキさん
大通りは前よりも見違えるように広くなって
電信柱もなく空が広く見えるようになったよ
でもねケヤキ並木は元に戻らなかったよ

元には戻れなかったけど伐られたわけじゃないから
ケヤキさんたちは植物園で元気にしているよ
風さんがそのことを言わなかったのは
森のケヤキさんを悲しませたくなかったからでした
森のケヤキさんの大きなからだがゆっくり揺れました
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