花物語
天国のネコたちへ
その人は夜中車で仕事をしていました
夜中には車の前をネコが急に飛び出して
ヒヤッっとすることがあるのです
そしてときどきは車に轢かれて
死んでいるネコを目にすることがあるのです

その人もこれまでに二度
ネコを轢いたことがあったのです
どちらもネコが急に飛び出してきたのです
一度目は即死でした
二度目は片足で駆けて行きました

その人の家には二匹のネコがいました
どちらも小さなときに捨てられていたのでした
その人は独り者で子どもはいませんでしたから
ネコを子どものように可愛がっていました
だから誰よりもネコが死ぬのはつらいのです

その人は車に轢かれたネコを見ることができません
見たりすると
つらくてつらくて悲しくて悲しくて
だから顔を背けてみないようにするのです
ちゃんと始末をしてあげられない自分が嫌いでした

車になんどもなんども轢かれて
姿かたちが分からなくない粉のようになって
そのうち風に吹かれて
どこか遠いところに行ってくれ
そうなるようことをただ願うだけでした

その人はネコのためになにもできないのが悔しくなりました
何か自分でもできることはないかと考えました
それからのことです
ネコの死んだ姿を見るとそのせめてもの供養にと
ネコの姿をかたどったものをつくるようになりました

ネコが死んで姿かたちが亡くなっても
ネコのことを思う人がいるということを伝えたかったのです
ネコが生きてこの世に居たことを忘れないようにと
せっせとネコの姿をかたどったものを残していきました
その数は本当は少ない方がいいのです

無いのが一番いいとその人は思うのです
でもそれが不可能なことは分かっています
車に轢かれなくても
病気で死ぬこともあります
また殺されることも

その人がつくったネコの姿をかたどったものは
ネックレスになり
ペンダントになり
ストラップになって
ネコを愛する人の身近に寄り添っています

その人は天国に行ったネコに謝り祈ります
あなたたちをちゃんと葬ってあげなくてごめんなさい
なにもできない私を許してください
その代わりにあなたたちのことをけっして忘れません
あなたたちの形見をつくり続けていきます
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