花物語
蔦でおおわれた喫茶店

日本海の大きな島の小さな港町に
蔦でおおわれた小さな喫茶店がありました
お店に飾られた子猫や子犬のイラストが
旅人を迎えてくれます
お店の名前は再会

旅人は再会という名のコーヒーを注文します
いつのころからか
再会で再会を飲めば
会いたい人に会えるという噂が
旅人から旅人へと広がっていったのです

お店をおおう蔦は雀のお宿
お日様が顔を出せば一斉に飛び立ち
遊びに出かけます
お日様が沈めば一斉に戻ってきて
ピ-チクパーチクおしゃべりタイム

旅人がどこからか来て
再会に立ち寄り
またどこかへ旅立って行く
蔦をお宿にしている雀のように
それがマスターの願いでした

蔦は小鳥や虫たちのお宿
安心して休める止まり木
蔦でおおわれた風景は
小鳥が大好きなまだ少年だったマスターの
こころの奥にしっかり刻まれてのでした

マスターが入学したのは
東京の下町にある国民小学校
その校舎は蔦におおわれていました
昭和二十年三月十日の深川大空襲
その校舎は焼け落ちてしまいました

蔦のある風景をこころに刻んだ少年は
日本海の大きな島の小さな港町の
小さな喫茶店のマスターになっていました
蔦でおおわれた再会という名の喫茶店で
マスターは誰に会いたかったのでしょう

四年前マスターは帰らぬ人になりました
どこかで蔦のある風景に出会ったら
蔦におおわれた再会という名の
小さな喫茶店とマスターのことを
少しだけでも思い出してください

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