窓下の愛想
窓下の愛想

「そろそろ帰らなきゃ」

そう言って、着替えに手をのばす彼女

僕はその腕を掴み

無理矢理引く

バランスを崩して

僕に寄り掛かった彼女を

強く抱きしめる

「そういう強引なところが大好き…」

そう言って僕を見つめる彼女の顔は

悲しげに微笑んでいた

その笑顔はこう言っていた

(それでも私は帰らなきゃならないの…。わかって…。)

……………………………

初めての「密会」から

10日ほど経過していた

その日も僕の隣で

難しい顔をして彼女は仕事を熟していた

昼近くになり

少し余裕が出てきたのか

彼女の表情は少し柔くなり

小さな声で僕に話しかけてきた

「お腹空いたね」

小さな笑みを浮かべて僕が首を縦に振ると

「ところで明日は何してるの?」

明日は休日

ある期待をとりあえず胸にしまい込み

特に予定は無いと告げる

「私も予定は無いな」

高鳴る鼓動を隠しつつ

ふーんとそっけない返事をしてみる

「痛っ」

彼女の肘が僕の二の腕を強く突いた

彼女の気持ちを確信した僕は

「逢おうか…」

誰にも聞かれないように小声で尋ねた

しばしの沈黙に胸がギュッと締め付けられる

「いいの…?」

小さな声でようやく答えた

彼女の瞳は笑顔だった

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