テノヒラノネツ
女性誌にスーツを着てインタビューに答えている彼。
絶対、年始年末合併号で売上狙いなのだろう。
シーズンオフだし、今期はゴールデングラブ賞も受賞して、WBCでも活躍して、ヴィジュアルがもう抜群のこの彼なら――インタービュー記事にする読者も出版社もばんばんざいだ。
数秒、雑誌の中の彼を見つめた。
大人になってしまったけれど、幼い日を一緒にすごしたはずの彼だ。

(カッコ良すぎる……こっちは全然、変わらないのに)

内心そう思うとため息をついた。
時計を見ると、もう少しで日付が変わる。
かったるいし寒いけど、お風呂でさっぱりする方がいいのかもしれないなと、千華はそう思って浴槽にお湯を貯め始めた。
勢いよくお湯が流れ出す音にまぎれて、携帯のメール着信音が聞こえる。
画面には古い友人の名前がある。

(?)

誰だろうと思って、携帯のメールをチェックする。

――――久しぶり、元気か? いきなりだけど来週の日曜日、川島のすし屋で忘年会をやらないか?だいたいみんな揃うはずなんだ。忘年会というより古賀のオフに乗じてバカ騒ぎしようという話なんだが、どうだろう? いきなりで悪いが、返事はなるべく早くたのむよ。 浅田―――

意外な相手ではあるが、この雑誌を見ていて、このタイミングでメールがくるのかと、千華は苦笑する。
浅田は高校時代の友人の一人だ。
そしてこの雑誌のインタビューに答えている彼の友人でもある。
学生時代の気のいい仲間達に逢いたい気持ちはあるけれど、このメールの文面から察するに、彼もこの集まりにくるのだ。
彼に会えるのは嬉しい。

嬉しいけれど――――……。

千華は雑誌に視線を落す。
小さな頃の彼を知ってるはずなのに、なんだか知らない人に会うみたいで、 恐い気持ちもある。
また携帯の着信音が鳴る。
送信者は、昔から―――今も変わらずによく連絡を取っている女友達からだった。
メールではなく直接電話だ……。

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