Mail
 去年の初盆、母の部屋の整理をしているときに見つけた綺麗な箱を思いだす。中には丁寧に手紙が収まっていた。それは長年、親父が母に宛てたものだった。その手紙の内容は、親父が異国で見たもの触れたもの、それを通して感じたこと、おそらく前の手紙で母が伝えたこちらの日常を羨む言葉、そして文の最後には会えない息子の様子をねだる言葉が記されていた。それが何年も何年も、途方もない日々の二人のやり取りがこの箱に詰まっていた。
 母は、もしかしたら幸せだったのかもしれない。息子との食事の時と夫への手紙を書く時間が、彼女にとって家族が揃う時間だった。夫と息子を繋ぎ、そこに家族の幸せを創りだそうとした。触れ合うことは叶わない。けれどそれを受け入れ、肌では感じられない幸せを母はきっと感じていたのではないだろうか。その幸せが、夫から宛てられたこの手紙と、それらが丁寧に仕舞われた箱から滲み出ていた。

 そして、親父もまたそれを創りだそうとしているのではないか。かつて妻と一緒に夢見た家族を、離れていてもお互いの気持ちが通じ合えるその幸せを今も創ろうとしているのではないか。それが、妻を今なお幸せにすることにも通じるから。
< 3 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop