恋する手のひら
「こっちが無理に薦めるわけにはいかないけどなぁ…」

佐々本は困ったように頭を掻く。

「───で、やりたいことって何?」

俺を見つめた佐々本の目に、嘘を見透かされているような気がして思わず目を逸らす。

佐々本ならそう聞き返してくるのは容易に予想できたのに、何も用意してなかった。
どう答えるべきか困ったとき、不意に頭の中に建築家の叔父の顔が浮かんだ。

「…建築に興味があって」

唐突過ぎたかな。

もう少し突っ込まれにくいマシな答えもあっただろうけど、言ってしまった手前、もう引けない。

佐々本は俺の顔を見て少し黙ったかと思うと、ゆっくり口を開いた。

「───お前は成績もいいし、バスケ以外にやりたいことがあるなら教師として応援すべきなんだよな」

佐々本が頭を抱え込む。
生徒思いの教師に嘘をつくのは正直胸が痛む。

「…分かった。
先方にも伝えておくよ」

「あと、俺が選考から外れること、タケルには…」

「もちろん言わないよ」

佐々本はいたずらっ子のような顔で人差し指を口元に当てる。

「負けず嫌いのあいつのことだ。
お前が辞退したなんて知ったら、モチベーションが下がって試合に影響するからな」

全く、佐々本は生徒のことをよく見てる。

俺は一礼してその場を去った。
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