初恋の実らせ方
「じゃあ、一生キスできないね」


英知は言いながら、そうであっても一向に構わないと思った。


啓吾という完璧な男の彼女になってしまった彩を自分に振り向かせる自信なんてなかったから。


「意地悪…」


彩は再び頬を膨らませ、ペットボトルをごみ箱に入れ直した。


今日の英知はやっぱり変だ、と彩は再認識する。

意地悪なのはいつものことだし、啓吾の話ばかりすると機嫌が悪くなるのにも慣れている。
だけど今日の英知の彩を見る目はやけに悲しそうで、彩をいつも以上に意識させた。


「―――教えてあげよっか…」


不意に英知がつぶやく。


「…何を?」


「キス」


彩は目を見開いて英知を見た。


「兄貴とするのが怖いんだったら、違う相手で試してみればいいじゃん」


英知は彩の反応を確かめるように見つめ返した。
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