胡蝶の翅
「人はね、片翼でも飛べるんですよ」
「……どういう意味だね」
本来から人間は飛べることは無いと、両翼だろうが所詮人工的に造った翼には代わりなく人間は空は飛べない。
片翼ならなおさら。
「そのままの意味ですよ。
『人は二回死ぬ』のと同じでね、人は片翼でも飛べるんです」
「残念だな私は飛んだことが無い」
「今も昔もあなたは空を舞っていますよ、鷹揚に…文字通り鷹のごとく」
どこを飛んでいるのか。
戦火に駆ける男を『飛んでいる』とみなすなら、男は二度と飛べるわけではない。
死人が誰かの記憶に生きるのならわかる、しかし、片腕を失った老兵など誰が覚えていようか。
剣すら忘れられたのだ。