柾彦さまの恋
 
 その少し後に薫子と祐里は、華道展を訪れた。



「萌さん、ご招待ありがとうございます。ご立派な作品展でございます」

 薫子は、会場で忙しく動き回っている萌を見つけ、労いの言葉をかけた。

「萌さま。ご招待ありがとうございます。ご盛況で何よりでございます」

 祐里は、盛況ぶりを薫子とともに喜んでいた。

「叔母さま、祐里さま、ご来場ありがとうございます。

 祐里さま、あちらをご覧になってくださいませ。

 お似合いでございましょう」

 萌は、薫子と祐里に礼を述べ、

柾彦と笙子が並んで楽しそうに話をしているところを

微笑みながら指し示した。

「柾彦さまと桐生屋さんのお嬢さまでございますね。

 微笑ましゅうございますね」

 祐里も萌同様、柾彦がしあわせそうな笑顔でいることを喜び、

柾彦に恋の春が訪れたことを感じていた。



「柾彦さんもその気になられたようでございますね。

 結子さまもこれで、一安心でございましょう」

 薫子は、結子の気持ちになって喜んでいた。



 しばらくして、薫子は、柾彦と笙子の熱気に当てられている結子に

声をかけ、恋する二人に配慮した。



「柾彦さん、私は、薫子さまとお食事をして帰りますので、

ここで失礼しますね。

 笙子さん、ご案内ありがとうございました。

 是非、遊びにいらしてくださいね」

「はい、伺わせていただきます。

 本日はお越しくださいましてありがとうございました」

 結子は、笙子に挨拶をして、薫子と祐里とともに会場を後にした。



 柾彦は、祐里と同じ会場にいながら、祐里の姿に気付かなかった。

 柾彦と笙子は、一緒に会場を回るだけでしあわせを感じていた。


 大勢の来場者の中にあって、そこは二人だけの世界が広がっていた。


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