超短編 『夢』 10
「よう、元気でやっているか」
夢の中でアイツは笑っていた。
「ああ、元気だよ。お前は」
死んだ奴に聞くことではなかったが、夢の中のアイツは少し若返ったようだ。
「取りあえずはな。それより、頼みがある」
「何だい。出来ることなら聞いてやる」
「妻を殺してくれ」
「何故だ」
「若い男を連れこんで、俺の生命保険の金を貢いでいる。それにまだ、墓も建ててもらってない。このままでは、成仏できない」
「俺を恨んでないのか」
「ああ、お前に恨みはない。自分で落ちたのだからな」
俺はアイツの二つの望みを叶えてやった。
墓を建てて、奴の妻を…
再び今度は目の前に現れたアイツは、俺に礼を言った。
「ありがとう、これで成仏できる」
そう言うとかき消すように姿が見えなくなった。
「俺も気が楽になったよ」
俺もそう言うと、ソファーに座った。
足元にはアイツの妻が横たわっている。
しかし、俺も腹を刺されてしまった。
まさかナイフを持っていたとは、、、。
次第に意識が薄れてきた。
成仏できたら、アイツとゆっくり話でもしようかな。