冬うらら 1.5

 触れても、いいのだ。

 手を伸ばしても。

 もう。

 ガマンしねぇ。

 彼は、その気持ちを強く抱いていた。

 メイと心を通わせることが出来てから、それだけは極力譲らない項目として、心の一番上に、大きな文字で書き記しているくらいだ。

 彼女について気持ちが渦巻いた時に、もう我慢なんかしたくなかった。

 あんなに、死ぬほど我慢し続けた反動だろうか。

 どういう理由にしろ、カイトが自分の手を止めることは出来なかった。

 その気持ちのまま―― ぎゅっと。

 彼女に触れることが出来る。

 柔らかさも温かさも、しっかりとカイトに伝わってくる。匂いも音も何もかも。

 ほっとするような、それでいて、もっと熱くなるような気持ちが、カイトを取り巻いた。

 ずっと抱きしめていたい。もう、このまま腕を解きたくない。

 「あっ…あの……おか…えりなさい」

 慌てたような声で、メイがもう一度そう言う。

 もしかしたら、離して欲しいと思っているのではないかという予測がよぎって、カイトはそれを振り払い、拒否するために、腕にもっと力を込めた。

 まだ、全然この感触に、満足していないのである。

 水のような彼女を、全身にしみこませていないのだ。

 ぎこちなく、固いままの水。

「おかえり…なさい」

 けれども。

 今度の言葉は、メイの身体から少しだけ硬直を取り除いた。

 抱きしめられることが、イヤではないのだと。

 さっきまでのは、ただ驚いただけなのだと教えてくれる気がして、嬉しさが押し寄せてくる。

 腕の力を抜いたりはしなかったけれども。

「晩ご飯は、おで……んんっっっ」

 勝手に動き出す唇を捕まえて、熱い気持ちを重ねる。

 言葉なんかよりも。

 もっと、伝えたい気持ちがいっぱいあった。
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