冬うらら 1.5
●
 こ。

 交代、しなきゃ。

 全部終わってしまったメイが、声をどうかけようか迷う。

 もう当初の目的のように、このままお風呂から上がればいいのかもしれない。

 そうすれば、 カイトだってゆっくりお風呂を満喫出来るのである。

「あ、あの……私、もう」

 身を縮ませたまま、メイは立ち上がると、外に向かうすりガラスのドアに手をかけた。

 ばしゃん!

 瞬間。

 また、生け簀が跳ねた。

 きゃあ!!!

 また、悲鳴を飲み込む。

 いきなり彼が大きな音を立てて動いたからだ。

 いや、いまのメイには、微かな風の音さえも幽霊の声に聞こえるだろう。

「つかれ!」

 後ろの方から声がした。

 そっと振り返ると、カイトが洗い場の前で、シャワーを持ったまま背中を向けている。

 彼の素肌の背中が、バーンと大アップだ。

 濡れた肌に、バスルームの明かりが反射している。

 その瞬間、身体がぽぉっとなった。

 更に、意識が混沌の中に沈んでしまう。

 あの、でも、そんな。

 メイは、いろいろと言おうと努力した。

 しかし、もし彼の言葉を拒否したら、今度は本当にこっちを向かれてしまいそうだ。

 メイは、オモチャの兵隊のようなカチカチの動きで、バスタブの方に向かう。

 ぱしゃん。

 湯船に、足の先を入れる音。

 彼女の場合は、小魚か。

 熱いお風呂であったことが、それで分かった。

 熱いのが好きなのかな。

 一つ、彼の好みを知ったような気がした。

 メイだったら、ちょっと水を足したいくらいだ。

 お風呂の湯を入れる時、食事とかいろいろ間に入るので、冷えないようにと、かなり熱めのお湯を入れておいたのである。

 後から追い炊きしなくてもいいようにと。

 しかし、冷める速度の方が遅かったようである。
< 60 / 102 >

この作品をシェア

pagetop