岸谷くんのノート
「…っ。」
横を向きながらただ片手で顔を覆い黙る彼をもう一度見つめ、灯はそのノートをまたギュッと抱き締めた。
「…。」
しばらくして、一言も発しない灯に不安そうに岸谷くんは視線を走らせる。
「…あ。」
灯はその視線に気付き、慌てて自分のカバンを漁り、一冊のノートを取り出した。
「…?」
ズイッと今度は逆に岸谷くんにそのノートを押し付ける。
岸谷くんは遠慮がちにそのノートをパラパラとめくった。
パラパラ…
パラ…。
あるページでピタリと動きを止め、岸谷くんは視線を灯に戻す。
「…。」
「…。」
「…【かもしれない】って、何。」
嬉しそうにそう呟いた彼に、灯りもつられて笑った。
「へへ……っキャッ!」
ヘチャッと笑う灯を、
岸谷くんは思わず抱き締めた。
【Fin】

