はだかの王子さま


 昨日は結局、わたしは北塔のゲストルームに逆戻りさせられちゃったんだ。

 ハンドと逃げてきた、迷宮の入り口の前で。

 まるで、舌なめずりしそうなビッグワールド王の『命令』に『王子』の星羅は、素直に従った。

 表情(かお)を冷たく強張らせ。

 声を、どこかになくしてしまったかのように、いくら話しかけても、答えてくれない星羅自身に抱きかかえられて。

 逃げてきたばかりのベッドの上に、戻された。

 黒アゲハ蝶のハンドが、その羽をぼろぼろにしてまで逃がしてくれようとしたのに……ね。

 無駄になっちゃったよ……

 ごめんね、ハンド。

 苦手なはずの水にあんなに濡れちゃって、大丈夫かな?

 王さまは、わたしがこの北塔の部屋から逃げ出さない限り、ハンドや美有希に危害を加えないって言ってたけれど…… 

 なんて、本当に考えなくちゃいけない問題を棚上げして、わたし、ハンドの心配ばかりしてた。



 だって、星羅が。



 あの……星羅が。


 ビッグ・ワールドの第一王位継承権を得るために。


 その、地位と権力のために。


 わたしの、本当の両親を焼き殺した……なんて。


 信じられなかった。


 信じたくなかった。


 けれども、星羅は何も答えてはくれなかったんだもん。


 ただ、今までに見たことの無いほどの悲しげな……苦しげな表情をしたまま。


『真衣の意志を無視して、その身に触れるものは、例え王でもすべて焼き尽くす』って。


 低く低く、呻(うめ)くように、宣言して部屋を出て行こうとしたとき。

 その。

 ひらり、と長い。

 まるで、童話に出てくるような、王子さまのマントの端が、手元の近くに来てたから。

 わたし思わず、握りしめてた。

「待って、星羅……! 行かないで!」

 一人にしないで。

 ……本当のこと、話して。

 なんて。

 いろんな思いを込めて、星羅を引き止めたのに。

 星羅は、わたしの目を見ることすら無く。

 自分のマントの先を、そっと外して出て行ってしまった。
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