はだかの王子さま
 
 そんな、星羅の態度に、わたしの気持ちが後ずさる。

 今まで聞いたことのない、口調がイヤだった。

 このままだと本当に、採寸だけ終わらせて、特に話しもせず、帰ってしまいそうな所は、もっとイヤだった。

「なんで、採寸するのにちょっと触るぐらいで、そんな風に断るの?」

 今まで星羅は、当たり前のように、わたしを抱きしめてくれたり、ほっぺにちゅーとか、してたじゃない!

 ……って、勇気をだして言ったら。

 採寸の準備をしていた星羅が、無表情に振り返る。

「なぜ?
 ……あなたは、両親を殺した相手に触られて平気なのか?」

「……星羅」

「王に告げられた真実に、あなたが食事一つ取れないほど、憔悴(しょうすい)していると聞いた。
 それは、王の話を信じたからだろう?
 なぜ? と聞くなら、私も返したい。
 本当は、もう二度と私の顔など見たくないはずなのに。
 誕生日のプレゼントに、わざわざ私のドレスが欲しいとねだったのは……なぜ?」

 そういって、星羅は口の端を持ち上げた。

 ぱっと見、それは、微笑んでいるように見えた。

 けれど、その瞳は、ぜんぜん笑ってない。

「あなたは、王と一緒にフェアリーランドの大扉をくぐり、ビッグワールドにゆく、と聞いた。
 真実を知り、私を憎む気持ちは、判る。
 一刻もはやく私を忘れるために、王の誘いを受け入れたのだろう?
 それも、判る。
 なのに、なぜ!
 寄りにも寄って私から離れてゆくときに着る衣裳を、私に頼む!?」

 その声はだんだん大きくなり、しまいには叫びになった。

 それはまるで。

 心のうちに燃え盛る炎を、無理やりねじ伏せているような声だった。

 もし、その炎に名前をつけるとしたら。

 悲しみと。

 怒りと。

 嫉妬……って言うのかもしれない。

 作られた、童話の国の『王子さま』だとしたら、絶対にありえない心の動きを抑えきれずに、星羅は叫び、そして。

 月光色の髪をひとまとめに括っていた飾り紐を、鬱陶しそうに投げ捨てると。

 つかつかと足音高く、ベッドの側まで来ると、乱暴にわたしの手を取った。
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