こおにの手紙
みえちゃん
 七月も半ばを過ぎました。
 イチョウの葉っぱは青々としげり、木々は新緑のよい香りをたたせ、アブラゼミは、今日も暑くなりますよと歌います。

 そんな朝です。
 もうお日さまは、熱いまなざしを地面に注いでいました。


 いちだん、にだん、さんだん、よんだん。
 頭に二つのリボンを結んだ小さな女の子が、今日も八十八神社の石段を登っていきます。みえちゃんです。


 さんじゅうご、さんじゅうろく……。
 石段は全部で八十八段あります。
 大人の中には、見上げただけでギブアップをしてしまう人もあるくらいです。 小さなみえちゃんにとっては、それは長い道のりなのです。


 しちじゅうはち、しちじゅうく……。
 ひたいにこつぶの汗をたっぷりのせて、みえちゃんはせっせこ登っていきます。
 こつぶの汗はどんどんつながって、みえちゃんのばら色のほっぺたをつたいます。



 ジーーーーー




 石段が終わりに近づくと、アブラゼミの歌声はいっそう大きくなり、ついには割れんばかりの大合唱です。



「はちじゅうは~ち! ふう、ついたぁ」




< 4 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop