マカロンの音色[side:she]
放課後、部活に入ってない私は家に帰るとすぐ自分の部屋へ向かう。
スクールバックを机の横に置いて、いつものように黒い椅子に座った。
目の前にはアップライトピアノ。
慣れ親しんだ重い蓋を開けて、鍵盤に敷いてある布を取り、静かに両手を置いた。
ゆっくり目を閉じる。
幼稚園の頃からずっと弾いてきたピアノ。
小さい時にテレビで見た旋律に感動したのを覚えてる。
ピアノはお母さんが習わせ始めたけど、それを聴いてからは自分の意志で続けている。
私は、ピアノの透き通った音色が大好きだった。
最近は作曲も頑張ってる。
まだまだ拙いけど、精一杯の心を込めて。
…今日はクッキーだったな。
甘い香りの中に香ばしさも合わさっていた。
目を開けた。
少し息を吸って、鍵盤を叩く。
指が白と黒の上を疾しる。
楽しい、嬉しい。
それだけの感情で弾いた。
「…今日は間違えずに弾けた。」
ふーっと息を吐き出す。
毎日欠かさずに練習するピアノ。
ここ1年は課題曲の前に、自分で作った曲を弾いている。
今日のはこの前やっと完成させることの出来た曲、あの甘い香りと彼をイメージした曲「マカロン」。
テンポのいい明るい曲で、トリルを多様した可愛い感じ…にしたつもり。
「ピアノの前ではこんなに感情を思いっきり出せるのに…。」
それから私は譜面台の上の本を開いて、課題曲の練習を始めた。