僕はショパンに恋をした
「私もね、昔ピアノをならっていたのよ。」

今度は藤堂さんが話し始めた。

「結婚して、子育てして、時間に追われてピアノを弾かなくなってね。」

うふふと彼女は笑った。

「ピアノは娘の嫁入りに持たせて、今は孫が使ってるのよ。」

その娘さん一家は、遠くに住んでいると言った。

「一昨年、主人が亡くなってね。独りになったら、もう何してよいかわからなくなってしまうのよね。」

だから、と彼女はピアノを見る。

「もう一度ピアノ始めようかと思って。たまたま朝比奈さんのお店を覗いたの。」

朝比奈さんがピアノを弾いていたそうだ。

その音色に魅かれて、譲ってもらったと言う。

「朝比奈さんったら、ただで良いって言うのよ。」

俺は驚いた。

だって、朝比奈さん、これが価値あるピアノだって知ってるはずだ。

なのに、ただで?
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