僕はショパンに恋をした
次の日。

俺は早速また『cafe ♪』に行った。

店の扉を開けると、昨日と変わらない光景。

客はいないし、紅茶の香りはフワリとするし、霧野さんはやわらかい笑顔だ。

「いらっしゃい。待ってたよ。」

俺は少し笑った。

「すいません、弾きにきたんじゃ…ないんです。」

霧野さんは、優しく何度もゆっくりと首を縦に振った。

「かまわないよ。ここはお茶を飲むところだからね。」

そう言って、カウンターから手招きした。

俺は素直にしたがって、霧野さんの前に座る。

「霧野さんのピアノ、聴きにきたんです。」

俺ははっきりと、そう言った。

言ってから、厚かましかったかと、少し頭を掻いた。

「すみません、昨日あんまり耳が気持ち良かったから…。」

霧野さんは、困る様子でもなく、やっぱりやわらかく笑って言った。

「嬉しいねぇ。またじじいのピアノ聴いてくれるなんて。だがその前に、紅茶はどうだね?」

今日はきちんとお金を払おうと、いまいちピントのはずれたことを考えながら、紅茶が出来上がるのを待つ事にした。


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