僕はショパンに恋をした
こんなに、優しい音楽が生まれるなら、誰かの為に弾くのも悪くない。

俺は本当にそう思った。

「霧野さんみたいに…、弾きたい…俺…。」

彼は今までにない驚いた顔をして、吹き出した。

「…何で笑うんですか?」

「いやいや、すまない。天下の八月桐儀君が、じじいのピアノを褒めてくれるなんて、光栄だよ。冥土の土産になるというもんだ。」

俺は本気で言ったのに。

何だかはぐらかされた気分になって、目を伏せた。

「じじいの、…そうだな、昔話を聞くかい?」

小さく頷くと、彼は話し始めた。

「もう、かれこれ40年近く前のことになるかねぇ。」

少し目を細めながら、霧野さんはゆっくりと話始めた。

それは彼と最愛の人の、話だった。
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