僕はショパンに恋をした
二人で暮らそうと、二人で決めた。

彼女は家を捨てると決心したのだ。

貧しいけれど、霧野は幸せだった。

毎日ピアノを弾いて、生活費をかせいだ。

楽しかった。

幸せだった。

彼女がピアノを弾かなくなっていることにも、気付かないほどに…。

ジーンは幸せそうに笑っていたのだ。

けれど霧野は彼女の心の寂しさに気付けなかった。

「最近ジーンはピアノ弾かないね。」

カフェのオーナーに言われて、霧野は初めて気付く。

暮らし始めてかなり経つが、確かに一度も聴いてない。

家に帰ったら、久々に弾いてもらおう。

霧野はそう決めて、ジーンの待つ家に急いだ。

帰るなり、ピアノを弾いてくれと頼む。

「…今は…弾けないわ。」

彼女は目をそらしたまま言った。

「私のピアノ、変わってしまったの…。ちっとも素敵じゃないの…。」
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