僕はショパンに恋をした
はずだった。

「嘘…だろ?…」

あるはずの場所に、あるはずのものがない。

「店が、…ねぇ…。」

予想してなかった。

店がなくなっているなんて。

だって、霧野さんはいつでも来いといったんだ。

なのに。

なのに、今目の前には、跡形もなくなった空き地しかない。

『売り地』と書いた看板だけが、ぽつんと立っている。

思考回路が完全に止まった。

どうなってるんだ?

店は?

霧野さんは?

言い様のない、浮遊感。

何か掴むものが欲しいと、自分の手を握り締める程に。

「店、先月で閉店したんだって。」

背後から不意に声がした。

びくっとして振り返った。

そこには、その声の主がいた。

いたけど、あまりの現実味のない存在に、俺は釘付けになった。
< 39 / 185 >

この作品をシェア

pagetop