僕はショパンに恋をした

彷徨旅

俺は、看板に書かれた不動産屋に携帯で連絡を取ってみた。

案外簡単にわかるものだ。

店は解体業者にすべて任せたらしい。

解体業者の連絡先と住所を教えてくれた。

「解体業者しだいってことか…。」

呟いた俺に、そばに立っていた少年は言った。

「残ってると、良いね。」

俺はふと気になって聞いた。

「あんた、すげぇ日本語うまいけど、こっちに住んでるの?」

全く脈絡のない質問に、彼はきょとんとして、それから少し笑って答えた。

「ちょっと前に来たんだ。日本は初めて。」

「へぇ…。それにしちゃ、流暢だね、日本語。」

ふふっと、風に揺れるように笑う。

まぁ、こいつのことは置いといて。

今聞いた、解体業者に早速電話した。

「…でねぇな。」

ちっと小さく舌打ちして、携帯を切る。

「場所、わかるなら行ってみたら?」

彼はまた、何てことないように言う。

「え、あぁ、まぁ、この住所なら近そうだけど…。」

「じゃあ、行こう。」

行こうって…、なんだ?こいつ。

「あのさ、なんであんたも、行くぞ〜みたいな感じなわけ?」

ん?という顔を向けて、まずいかな?と聞き返される。

「いや、まずいとか、そういうことじゃなくて…。」

「なら問題ないよね。さぁ、案内してね。」

はぁ?っていうか、何様なんだ。

「名前…。あんたの名前何ていうんだ?」

何となく釈然としないまま聞く。

彼は振り向きながら、梅雨の湿った空気さえ、さらりと飛ばすかのように、艶やかに笑って言った。

「シオン。」
< 43 / 185 >

この作品をシェア

pagetop