C'est la vie!

足りないもの




―――どれぐらい経っただろう。


いつもは眠くなる時間帯だろうに、眠気は一向にやってこなかった。


「ねぇ……零くん……」


ぽつりと聞いて、隣で眠る零くんの方を伺うと、零くんはあたしに背中を向けていて僅かに身じろぎした。


でも起きだしてくる気配はないし、返事もなかった。


寝ちゃったのかな―――…


訝しく思って身を起こし、ちょっとだけ零くんを覗き込むと、零くんは寝てはいなかった。


ただ睨むように真剣な目で壁を見つめ、口元を引き結んでいる。


聞こえなかったのかな…


「……零くん…?」


もう一度零くんを呼ぶと、零くんは今度こそゆっくりと目を閉じて眠ったフリ(?)をした。


あたしも覗きこんだ顔を引っ込めて、零くんに背を向けてごろりと横になる。


どうしよう……


どうしよう…!零くん完全に怒っちゃったよ…!







どうしよう





――――

――


零くん怒っちゃったよ……


「しくしくしく……」


まるで女幽霊のすすり泣きのような声をあげながら…


いや、実際半分幽霊なんだけどね。


古びたバスルームのバスタブで膝を抱えて、泣いているところに


シャッ



ぼろぼろになって半分朽ちたカーテンを引いて、クロウさんが呆れたように顔を出した。






< 150 / 194 >

この作品をシェア

pagetop