名前の無い物語

目の前に広がる光景
柚歌はすぐに信じられなかった

あれだけ後悔して
悩んで…苦しんだ

どれだけ手を伸ばしても、望んでも、欲しても二度と手には入ることはない筈の


間宮空が…今自分の目の前にいる…!



「久しぶり、柚歌。つっても、そんな雰囲気じゃねぇよな。」

この張り詰めた空気の中
少年ーー間宮空はハハッと笑った


チャリ、空の耳に金属音が届いた瞬間
空はすぐに上体をずらして右に避ける

さっきまで空の頭があった所を…黒色の剣が空を切った


「空っ!」柚歌の悲鳴が周りに響く
そんな柚歌を他所に、ニッと笑って空はそのまま片足をあげて空中に蹴りを入れる
すると、空を襲っていた黒蘭の鳩尾にヒットした

「っ!」悲鳴をあげる事も無く、黒蘭はそのまま数メートル飛ばされる


「えっ?」

「は?」

その光景に目を奪われていた間に
柚歌と海の体は宙に浮いた

そのまま、まるで引っ張られているように空の下へと向かう

柚歌、海、吉野…三人が集まったと確認すると
空の周りに光が渦巻いた


「…移動の力か。」

崖の上から老人はそう観察する

「…わりぃけど、今あんた等と戦うのは分が悪いんでね。
まぁ、俺もよくわかってねぇんだけどさ。」

最後に、また空は笑うと
光は徐々に威力を増し、四人を包み込む


カッ、と光が輝いた時には
四人の姿はその場から消えていたーー







< 344 / 595 >

この作品をシェア

pagetop