ライオン岬
タイトル未編集
 小学校の卒業式の帰り、ぼくはユーイチとライオン岬まで行く約束をした。ユーイチはぼくのなかよし。乗り物は自転車だ。
 ぼくたちは、南の島の小さな村でくらしていた。ぼくの家は父さんと母さんとぼくの3人。父さんも母さんも村の役場につとめていた。ユーイチの父さんは駐在さん(ちゅうざいさん、おまわりさんのこと)なんだけど、この4月から転勤で、ユーイチたち家族はもうすぐ本土に移り住むことになっていた。
 幼なじみのユーイチがいなくなってしまうのは、やはりさびしい。ユーイチもきっと同じ気持ちだったのだろう。
 だから、卒業記念に、数キロ南のライオン岬まで行こう、とユーイチが校門のところで言ったとき、ぼくは二つ返事でOKした。
遠乗りの決行は3月31日と決まった。翌日の4月からは、まだ春休みの最中でも、もう中学生のあつかいだ。だから、小学校最後の日の思い出を、岬までの遠乗りでかざろう、ということになったのだった。
 ライオン岬は、南にあるこの島の、さらに南のはてにあり、くろしおが打ちよせる太平洋に細長くつき出していた。横からのながめが、まるでライオンが寝そべっているように見えるところから、こうよばれていた。
 ライオン岬の頭にあたる高台には、昔、本土からやってきた、えらい行者(ぎょうじゃ)が修行したというどうくつがある。でも、ぼくらの小学校でそのどうくつに入ったやつは、まだだれもいなかった。
 そこは行者の岩屋(ぎょうじゃのいわや)、とよばれていた。ライオン岬の高台には、まわりを天狐森(てんこもり)にかこまれた、天狐森神社がある。そして、その神社の本殿(ほんでん)の横の小屋の中には、行者の岩屋につづく秘密の階段がある、とささやかれていた。
 
 


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