幼なじみの甘いレシピ

「ねえ、ユイ。もうすぐバレンタインだよね」


何の脈絡もなく出てきたその言葉に、「あー、うん」とそっけなく返事をすると、カナエはジレったそうに身を乗り出して、わたしの机に手をついた。


「あーうん、じゃなくて! ユイはどうするのよ」

「何が?」

「本命チョコ」

「……」

「みんなそのことで頭の中いっぱいだよ?」


……わたしだって、もちろん気づいていないワケじゃない。

最近、教室や街や雑誌の中にまで溢れている、独特の空気。

クラスの女の子たちも目を輝かせながら、小声で相談しあってる。

ねえ、誰にあげるの?
勇気を出して告白する?
やっぱり手作りチョコ?

ひそひそ、ひそひそ。めいっぱいボリュームをおさえた声で。


そして男の子たちは、わざと聞こえないふり。ほんとはみんな、気付いてるのにね。
だけど気付かないふりをするのが、きっとこの季節の暗黙のルールなんだ。


どことなく浮かれたそんな空気の中、わたしも焦りを全然感じないと言えば、嘘になるけれど。


「……わかんない。面倒だし、たぶん何もしないよ」


ノリの悪いわたしの言葉に、カナエが深くため息をついた。

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