龍とわたしと裏庭で⑤【バレンタイン編】
「ごめんなさい……」

「謝らなくていい。単純な事じゃないか。一つ選んで食べて、僕に笑顔を見せてほしい。そうして明日、悟の家に電話をして『とっても美味しかった』って言えばいいだけだよ」

「うん……」

「どれにする?」

「イチゴ」


圭吾さんはイチゴのカップアイスを取り出すと、

「おいで。僕が髪を乾かす間、食べていればいい」

って言った。


新年早々失敗しちゃった。

圭吾さんの足元に座って、髪を拭かれながらそう思った。

イチゴアイスは甘酸っぱく、ミルクの味が濃厚でとっても美味しかった。


「おいしい」

つぶやくように言った。

「圭吾さんも食べる?」


「いや。先に君の髪を乾かしてしまいたい」


取り残されたような気分。


アイスクリームを見た時、単純に喜べばよかった。

髪だって自分でちゃんと乾かせたのに、久しぶりに圭吾さんと過ごすのが気まずくてズルをした。


父さんには、圭吾君が必死になってお前の機嫌を取っているように見えるよ――

親父の言葉が不意に思い出された。

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