龍とわたしと裏庭で⑤【バレンタイン編】
「ああ、そう。勿論そうよね」

松本さんは冷たく答えると、わたしたちの方にツカツカと歩いて来て、悟くんの胸倉を捕まえて強引にキスをした。

長谷川くんが今にも殴りかかりそうな形相で悟くんを睨んだ。


「僕は無実だ」

悟くんが両手を上げる。


「わたしだって、羽竜くんとは何でもないわ」

松本さんが涙声で言った。

「だから平気よね?」


「平気な訳ないだろっ!」


シーッ! ここ、図書室よ


「わたしも平気じゃなかった。だから二度と話しかけないで」

松本さんはそう言い捨てると、ツンと顔を上げ、しっかりした足取りで図書室を出て行った。


「先輩の助言を聞きたいかい?」

悟くんの言葉に長谷川くんが振り向いた。

「あれは生半可なことじゃ許してもらえないよ。君のそのステキな髪を丸坊主にして、土下座するんだね。彼女にはそれだけの価値がないって言うなら別だけど」


「いえ、それだけの価値がある人です。失礼しました」

長谷川くんは、外見とはそぐわない生真面目さで悟くんに一礼すると、図書室を出て行った。

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