龍とわたしと裏庭で⑤【バレンタイン編】
紅(くれない)匂う

うーん……

どうしてこんなに品物があふれているんだろ


バレンタインデーグッズを売る特設ストアときたら、赤とピンクのハートがこぼれ落ちそうな別世界だ。


「あー、そのチョコおいしそう」


お高いトリュフチョコレートのサンプルを、かぶりつくように見ているわたしを見て、美幸が呆れたように首を振った。


「もう、カッコ悪いわね。買って食べればいいじゃん」

「『自分で食べます』ってカッコ悪くない?」

「言わなきゃ分かんないでしょ」


そうか


「でも、確かに変よね」

亜由美が言う。

「絶対に女の子の方がチョコレート好きなのに、どうして男の子にプレゼントしなきゃならないの?」


「製菓会社が目測を誤ったんだろ」

悟くんはカラフルな男性用下着のパックを手にしながら言った。


「それ、誰かに贈るんですか?」


こら、美月! そんなのガン見すんじゃない!


「自分ではこうかな。美月ちゃんもどう? うちの大輔に」

「そうですね……」

< 65 / 125 >

この作品をシェア

pagetop