君とこんぺいとう
「薬買ってくるから着替えて寝てろ」

隼人は一度私を部屋まで送り届けると
そう言って出て行った。

私は寒気で震えながらも
スーツを着替えてベッドにもぐりこんだ。

しばらくすると隼人が戻ってきた。

「萌、薬買ってきたから」

「…ありがとう」

私はおとなしく隼人が持ってきてくれた薬を飲んだ。

「ヨーグルトとかいろいろ買ってきたけど
何か食べたいものある?」

「…いまはいらない」

起き上がる気力もなく私は首を振った。

「そうか。じゃあ、あとで食べたくなったら食べろよ」

私の髪を優しくなでる隼人の手が懐かしくて
ベッドの中で泣きそうになる。

「俺、帰るからな」

そう言って立ち上がろうとした隼人の手を
私は反射的につかんでいた。

隼人が驚いて私を振り返る。

「…かないで…」

「萌?」

「行かないで…」

具合が悪くて気弱になっていたせいか
それとも昨日茜さんといる隼人を見たせいか
どちらか分からなかったけれど、私は冷静になれなかった。

「…お願い、行かないで」

手をふりほどかれるかもしれない…。

そんな不安で押しつぶされそうになった時
隼人がベッドに腰かけ、私の手を優しく握り返した。

「大丈夫。そばにいるから」

大丈夫。

その言葉と手のぬくもりに
私はホッとして眠りに落ちた。


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