君とこんぺいとう
手のぬくもり
里中がうちの会社に来てから1ヶ月がたった。
彼はすっかり周囲と打ち解けて会社に馴染んでいた。

私は相変わらず仕事の鬼のままだったけれど
何かと話しかけてくれる里中とは
前より自然に話せるようになっていた。

「よかったな。
小川が普通に話せる相手が増えて」

田代くんの言葉に私はキーボードを打つ手を止めた。

「小川が話す相手って俺と佐々木加奈子くらいだし。
俺、実は心配してたんだ。お前のこと」

机に頬杖をついて微笑む田代くんを
私は軽く睨んだ。

「田代くんの場合は
一方的に話しかけてるだけでしょ。
そういうことばっかり言ってると女の子に誤解されるよ」

冷たく言う私に田代くんはめげずに言った。

「本気で心配してたのに冷たいなぁ。
小川は周りを遮断しすぎだぞ」

『遮断しすぎ』という言葉は何だか耳に痛かった。

帰り支度をした田代くんは
私の隣のデスクに腰をおろした。

「これを機会にもっと仲間を増やしてみれば?
彼氏とか作っても世界観変わると思うぞ。
なんなら、俺が相手してやってもいいけど。
俺と付き合う?」

「仕事の邪魔」

田代くんは全く相手にしない私を
面白そうに見て言った。

「はいはい、お邪魔虫は帰るよ。
じゃ、お疲れさん」

私は彼の後姿を軽くにらむと、周りを見渡した。

「みんな帰るの早い…」

「まだ俺いるんだけど?」

「えっ…」

てっきり一人だと思っていた私は突然声をかけられて
心臓が止まるかと思うほど驚いた。

「なんだよ、人をお化けみたいに」

里中は拗ねたように言った。

「ご、ごめん。誰もいないと思ってたから」

「俺はいま取引先から戻ったところ」

里中はそう言うと
思い出したようにカバンから何か取りだした。

「そうだ、小川にお土産があるんだ」

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