今までの自分にサヨナラを


そうしていつの間にか目の前には、少しくすんだ赤い看板に大きな黄色い文字で“昇龍”と書かれていた。


通学の車内からいつも見ていたこの看板。


行ったことはないけれど、うちの近所のラーメン屋。


私は驚きのあまり呆然と看板に見入っていた。


「本当に……ここが家なの?」


冗談じゃない。


近所で、毎日前を通っていたこの街のラーメン屋がまさか彼の家だとは。


「そうだよ。さゆん家近くて俺も驚いたしね」


簡単に笑う彼に私の頭はまだ追い付かない。


だけど、彼はそんなのお構い無しだ。


「ただいま〜」


音をたてて開けられた引き戸、暖簾をくぐる彼。


私は目の前に迫った緊張に、小さな手をかたく握っていた。



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