会いたい
 幽霊の顔にも、安堵の表情が浮かぶ。
 その時の私は、彼を幽霊だと頭では理解していたが、本当にはわかっていなかったような気がする。

「ごめんなさい。あなたのせいじゃないの。ただ、勝手にかんちがいしてただけ。気にしないでね」

 私が笑うと、幽霊も笑った。
 とても変な幽霊だ、ちっとも恐くない。
 恐そうな顔もしていないし、体には血もついていない。
 透けて後ろの壁が映っていなかったら、とても幽霊とは思えない。
 しかも私に頭を下げた。絶対に変わってる。

「あなた、どこから来たの? どうしてここにいるの? 昔、ここに住んでた人?」

 私が言うと、幽霊は困ったような顔をした。
 唇が何かを語って動いた。
 けれど、私には聞こえなかった。

「何? もっと大きな声で言って。全然聞こえないわ」

 もう一度、幽霊は言ったが、やっぱり私には聞こえなかった。
< 10 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop