伯爵と妖精~新しい息吹~
「分かりました」
そしてエドガーはウェンベルト邸を出ていった。


仕事部屋のドアが開く。
「奥様、旦那様がお帰りですよ」
それを聞き、急いで部屋を出たリディア、
玄関でシルクハットをレイヴンに渡していたエドガーが、こちらを向き両腕を広げた。
少し戸惑ったが、妻としての役割だと思い抱き着いた。
「お帰りなさい、今日は何処へ行っていたの?」
「友人に誘われてクラブに行っていたんだよ」
いつも通りに出来たか不安だったのですぐに離れた。
そんなリディアを見て、ケリーが気をきかせた。
「旦那様、ディナーの準備が出来ておりますわ」
「あぁ、頂くよ」
リディアをエスコートし部屋に入った。
「リディア、今日のソテーは最高だね」
「え、えぇ…」
曖昧に答えると、
「やっぱりまだ体調悪いのかい?食欲が無いようだけど」
吐き気がしてあまり食べれないのは確かだった。
「そ、そうなの。あの…、エドガー」
エドガーがナイフを置いた。
「なんだい?」
「そ、その…。今日は別々で寝たいの」
妻として言うべき言葉では無いが、妊娠している間はそうしたかった。
「どうして?僕何かしたかな、やっぱりウェンベルト夫人の事かい?」
「どうしてその事を?」
エドガーに知られてないと思ったのに。
「ニコから聞いたよ」
あの薄情者め…、でもいつ聞いたのだろう?
「でもあれは全くのデマだよ。僕は君しかいない」
「えぇ、分かっているわ…」
手を握られ少し焦る、
「じゃあ、どうして?」
攻め寄られてもまだ答えたくはない。
「言えないわ…」
俯いていた顔を上げたら、悲しそうな瞳をしたエドガーが、こちらを見つめていた。
「それは夫の僕にはさえ言えない事なんだね…」
ハッとさせられた。
自分は何を迷っていたのだろう…、愛人がいたというデマのせい?いいや、エドガーがお腹の子を本当に愛してくれるか不安だったせいだ。
「分かったよ、僕は別の部屋で寝るよ」
そう言うとエドガーは立ち上がった。
「君はもっと食べていて」
立ち去るエドガーに、
「待って!これには事情があって…」
しかしエドガーは振り向かず立ち去った。

一人残る部屋で、リディアは思わず泣いていた。
部屋に入って来たケリーが、リディアを慰めながら、
「やはりちゃんと奥様が妊娠していることは旦那様にお話しましょう」
「えぇ…、秘密にするなんて間違っていたわ」
泣き止んだリディアが立ち上がり、
「エドガーは今何処かしら?」
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