愛・地獄変 [父娘の哀情物語り]
 ある夜のことでございました。
娘の妙子に、感謝の意味も込めまして
「洋服の一枚も買ってきなさい。」と、少しまとまったお小遣いを渡すことにいたしました。
いえいえ、お駄賃はあげておりますですよ、毎回。
なに、ほんの少しですから。
は?洋服がミニスカートですと?誰がです!そのような不埒なもの、小夜子が買い求める筈がありますまいて。
え?小夜子と言いましたか?
妙子です、妙子ですぞ。
そう申したのに。

「妙子や・・」と声をかけようとしますと、部屋から声が聞こえてまいりました。
妻が、妙子と話しこんでいるようでございます。
昼間にも話をしているのに、こんな遅くまでなにも・・。
どうせわたくしの悪口を吹聴しているのでございましょう。
「で、どうなの?お父さんのお世話、キチンとしてくれてる?」
「勿論よ!いっつも、『ありがとうな』って、手を合わせてくれてるわよ。」
「そうなの、そんなに喜んでくれてるの。
それは良かったわ、この先もお願いね。」

「うん、良いわよ。
お駄賃だって、お小遣いもくれるしさ。
でも、どうしてお母さんたち、仲が悪くなったの?以前は仲が良かったじゃない。
お母さんが寝込んだ時、お父さんが寝ずの看病をしてくれたんだって?」
「そうね、そんなこともあったわね。
女学校に入ってすぐだったわね。
あの頃のお父さんときたら、観音様のように崇めるところがあってね。
嬉しくなんかないわよ、重荷よ。
お友達の前なんかでそんな素振りを見せられて、カッときたわよ。」
「ふーん、そうなんだ。ほんとにお母さんが好きだったのね。
なのに、今は・・」
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