愛・地獄変 [父娘の哀情物語り]
 あぁ、申し訳ありません。
もうこれ以上のことは、わたくしには申し上げられません・・・
失礼致しました。
ここでやめては、何のことかお分かりになりませんな。
ほれそこのお方、いかにもご不満なご表情をされて。
他人の不幸は、蜜の味ですかな?
それでは気を取り直して、お話を続けさせていただきます。
まだまだ夢は続くのでございます。

 真っ赤な血の川を渡っているはずの私の小舟が、突然に現れる裂け目の中に真っ逆さまに落ちていきます。
岩を伝って逃げようとしますとその岩が急に砕け、私の手が挟まれてしまいます。
今までに味わったことのない痛みに、危うく失神するところでございました。
万力に挟まれた手の骨が、ミシミシと音を立てております。
五倍十倍の太さに腫れ上がった指から、今にも血が飛び散りそうでございます。

 と、いつ持っていたのか、もう片方の手に斧があるのでございます。
そして恐ろしいことに私の意志に反し、その斧で岩に挟まれた手を切っていたのでございます。
どっとあふれ出る私の血に、私自身が押し流されます。
必死に、その血の海を泳いでおります。
ところが、すぐ近くに見える岸辺が、泳げば泳ぐほど遠くなっていくのでございます。

 もう、気も狂わんばかりでございます。
あぁもう、そのまま気の狂った方が良かったと思えるほどでございます。
おわかりいただけますでしょうか?
この恐ろしさというものが。
 兎にも角にも、こういった夢を毎晩見るのでございます。
昨夜は眠るまいと致したのでございますが、いつの間にか徒労に終わりウトウトとしております。
それどころか、それら全てが夢のようにも思えるのでございます。
もしかして、今この時も、夢?なのかもしれません。

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