俺のこと、好きなくせに
「そろそろ、夏休みだね……」


瞳がポツリと呟く。


「うん」

「じゃあ、そんなに頻繁には来られなくなるね」

「え?何でだよ?夏休みだからこそ来られるじゃん。それに長い時間居られるし」

「あのねぇ、進藤くん。受験生だっていう自覚あるの?」


瞳は困ったような笑いを浮かべ、続けた。


「この夏が正念場なんだから。人の事にかまけてないで、自分の為に有効に時間を使いなさいよ」

「はぁ?誰に向かって物言ってんだよ」


俺はあえてキレ気味に言葉を発した。


「常に学年10番以内をキープしている俺様に向かって。こちとらもう準備は万端なの。今更焦る必要なんかないの。つーか、むしろ、一日中机に向かってる方がおかしくなるよ」


瞳は大人しく俺の言葉に耳を傾けていた。


「適度に息抜きした方が、ストレス溜まらなくて良いんだからさ」

「……私のお見舞いは息抜きなわけ?」

「そうだよ」


踏ん反り返りながら偉そうに答えてやると、瞳は「ひどいなぁ」と呟きながら小さく笑った。


だけどすぐに顔を歪め、ゴホ、と咳込んだのを見て、俺はギクリと固まる。


その発作はすぐには治まらず、俺から顔を背け、ゴホゴホと苦しそうに咳込む瞳の背中を、俺はなすすべもなく、ただ見つめ続けた。
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