鬼遊び
「待たせたな。話を聞こう」
そう言って着替えを終えた女が戻ってきた
「“解”」
まただ。脳に直接響くような声
この声に体が従っている
「まあ、座れ」
「座れって・・・どこに座んだよ」
蓮司の言う通り、散らかった部屋に座る場所などない。
「おお、すまないすまない。活きのいい眼鏡だな」
そう言って指を振ると散らばっていた本が勝手に動き出して、本棚に整列していた
しかも、ほうきや雑巾まで動いたかと思えばみるみる内に綺麗になっていく
「す、すごいです!まるで魔法ですね!」
「魔法・・・いや。これはちとばかし別物さ。呪いだ」
「まじない・・・ですか?」
「ああ。この世界には魔法使いはいない。いるのは呪い師か詐欺師だ」
「おい、そんなことはどうでもいいんだ。どうやったら帰れるんだ」
「知らん」
「知らないって・・・何かしらあるんじゃ・・・!」
「何かしらって言われてもなぁ・・・。」
蓮司に続き俺も聞いてみた
「俺達は何でここにいるのかもわからないんですよ。」
「私も知らん」
「知らねえってことはねえだろ。お前の家に来てるのだって何かしら関係あるんじゃねえのかよ」
やけに突っ掛かる蓮司
それに対して反応を示さないこの女
「帰り方ってないんでしょうか?」
由紀も必死に何かないかと聞く
「あー!もう、ごちゃごちゃうるさいぞ!だいたい、貴様等のような不法侵入者に帰り方を教えたところで私に何の利益があるんだ」
そう言われてしまえば何も言えない
「な、何でも言うことを聞きます!」
「なっ!?由紀・・・お前っ」
「ほお、女。」
「はひっ!」
「何でも・・・と言ったな。」
「何だって聞きます!」
「私に何をくれるのだ?目玉か?指か?鼻か、耳か?それとも、心臓か?」
「へ?」
「何でも言うことを聞くんだろ?人間の肉は美味いぞ。身が締まっていてな。女なんて程よく柔らかい肉でな。」
あまりにも極上の笑みを浮かべながら話す彼女に俺は血の気が引くのがわかった
スッと立ち上がりゆっくりゆっくりと由紀に近づくのを見て助けなきゃって思ったのに体が動かない
由紀も恐怖からか体が強張り、思うように動かないのか壁まで追い詰められていた
頬を触れられた由紀が小さく悲鳴をあげていた
彼女の口が耳に近づいていた
ゆっくり ゆっくり
そして口を開き
ガブリっ
「いっ!?」
「・・・ふふふ。ふふっ、アハハハハハハハハっ!冗談だ。本気で怯えおって」
「へ?」
俺は緊張が解けたのか体中の力が抜けていった