記憶混濁*甘い痛み*
『和音先輩に迷惑かけないように、私も頑張るわね』
ストールを掴んだ瞬間に、友梨の声が聞こえた気がした。
彼女の短大時代、人目を忍んでの逢瀬時。
和音にプレゼントされたストールを その場で巻いてもらいながら、そう言って友梨は幸せそうに微笑んだ。
和音との思い出は残っていないにしろ、大切にしているストールを単なる知り合いの男に差し出す……
深山咲友梨は、確かにそんな、優しい……どこまでも優し過ぎる女だった。