定義はいらない
タクシー乗り場の手前で先生は急に立ち止まった。

「うちに来る?」

「今度は家ですか?」

この大人気なさが少し笑える。

「彼女、いないんですか?」

「今日はいない。」


『今日は』のところが引っかかって私は手を離した。


「ダメですよ、浮気したら。」


そう言ってホテルから一歩踏み出してタクシーに乗り込んだ。


窓ガラスを叩く音が聞こえて窓を開ける。

「これ。」

そう言って千円札を何枚か渡される。

「要りません。」

私は少し強めに返す。

「彼氏じゃない人にタクシー代まで貰えません。」

我ながらこういうところが可愛くないって思う。


「では、お疲れ様でした。また。」


急いで窓を閉めて、タクシーの運転手さんに家の場所を伝える。

少し後ろ髪を引かれて振り返ると

別のタクシーを呼ぶ年配男性の姿が目に映った。
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