定義はいらない
「俺さ、お前のこと『友達』として大事に思ってるんだよ。
 でもそれなのに抱いてしまうのは大事に出来てないってことだと思う。
 前からそれを言おうと思ってたんだけどさ、やっぱり会うとさ。
 俺も男だし。それが俺の悪いところでもあるんだけど。」

『お前』ってまた呼ばれた。

「俺は今みたいな関係は嫌だ。何でも話せる『友達』に戻りたい。」

「何でも話してたんじゃないの?」

「話してない。」

あんなに無遠慮に下ネタ話してたくせに。

「お前、俺に何か言われると傷つくだろ?俺は遠慮してお前と話してる。」

あぁ、この人は私とは違う価値観の持ち主だなと改めて思った。

でも、それを口には出さない。

言っても通じないから。

『友達』でも思いやりがいるし、遠慮してしゃべって欲しい。

『友達』だから何でも口に出していいとは限らない。

それに、私が松木先生の言葉で傷つくのは

私が彼の言葉を聞いているからだ。

「俺の言うこと聞いてる?」

「聞いてる。」

『友達』だからちゃんと聞いているのに。

「『友達』に戻れるまで距離を置こう。」

意味が分からない。

「つまり、今は私と連絡取りたくないってことでしょ?
 で、自分の都合がよくなったらまた連絡してこいってことだ。」

「そんなこと言ってないだろ?」

怒り口調になる。たぶん図星。

「だって私にはいつ連絡していいか分からないじゃない?
 松木先生の機嫌が良くなるのは1ヶ月後かも3年後かも。
 何か条件があるわけ?」

「何か条件があればいいわけ?」

本当に条件をつけそうだなと思った。

私は遮る。

「私はセックスがあってもなくてもどっちでもいい。
 ただ、松木先生に捨てられたくない。
 信用しているし、松木先生といると楽しいし。」

夢の影響か、ここ2年の思い出が頭を走馬灯のように駆け巡る。

「私、松木先生と話してて楽しかった。本当は最近辛いことが多くて。
 先生とこんな風にならなかったら私は今ここにいないかもしれない。」

涙が滝のように流れる。泣き声が漏れる。

男の人との電話でこんなに泣くなんて。

初めてだった。

「だから感謝してる。」


そして私は人生で初めて『愛している』という言葉を使った。
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