シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
―――わたしはどうしてこんなところにいるの?

この世界はいったい何?

もう家に帰ることができないの?

パパ、ママ、わたしはこれからどうすればいいの・・・



これから先のことを考えると、言いようのない不安に押しつぶされそうになる。

加えて、アランの冷たく刺すようなブルーの瞳に見据えられて

なんとも居心地の悪い、居た堪れないような気持ちになる。

エミリーはギュッとスカートを握り締めて、今にも零れそうになる涙を必死に堪えていた。



そんなエミリーの様子を訝しげに見ていたアランは

フッと息をつき、思案気に一瞬瞳を伏せた。



「ウォルター」



アランに呼ばれ、背の高い精悍な顔立ちの黒髪の青年が素早く入ってきた。


「この者は、異国から来た客人だ。暫くこの城に滞在する。

お前は警護をしろ。  それから・・・メイ」


ウォルターはアランの言葉に了解を意味する、

手を胸に当て軽く頭を下げる動作をすると、エミリーを訝しげに見た。


必死に涙を堪えているエミリーに目を奪われていたメイは

突然アランに呼ばれ、慌てて居住まいを正す。



「メイはこの者の世話をしろ」


そう命じるとアランはエミリーに向き直り



「エミリー・モーガン。君の言うことを信じよう。

異国から来た君がこの国に慣れ、生活できるようになるまで

この城で暮らすが良い。下がって良い」



そう告げると、アランは再び山のように積まれた書類に目を向けた。



ウォルターはエミリーたちが部屋から出て行ったのを確認すると


「アラン様」


「何だ?ウォルター」

書類にペンをはしらせていたアランは忠実な部下の呼びかけに手を休めた。



「あの娘を城に住まわせるのには同意しかねます。

森にいたなどと、得体が知れません。それに賊の仕掛けた罠かもしれません。

アラン様の身に何かあっては・・・」



ウォルターの言葉にブルーの瞳が妖しく光る。


「大丈夫だ。あのような非力な娘に私がどうこうされるわけがない。

それに、見張りの意味も含め、お前に警護を命じたのだ。

しっかり頼む。今日はもう下がれ」




ウォルターはまだ釈然としなかったが、主の命令には逆らえず

無言のまま軽く頭を下げ、執務室を後にした。
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